汚物槽内の清掃中に発生した硫化水素中毒

発生状況

 当該清掃作業は、ビルの地下4階にあるNo.1、No.2、No.3の汚物槽、雑排水槽及び地下1階の井水処理槽の定期清掃を、甲社がビル所有者から請負い、乙社に一括下請けさせたものである。乙社は従業員数45名であり、浄化槽及び地下槽の清掃管理事業を行っている。
 災害発生当日は、乙社の作業者5名で雑排水槽、No.1、No.2汚物槽の定期清掃を行う予定であり、甲社のFが立会っていた。
 最初に清掃予定の全部の汚物槽等のマンホールを開いた後、雑排水槽の清掃に取りかかった。まず、雑排水槽取り付けの排水ポンプを作動させ、汚物を下水管まで汲み上げた後、Fが酸素濃度を測定し、2羽のセキセイインコが入った鳥籠をAが槽内につり下げ異常がない事を確認した。AとCは槽内に入り、槽外の消火栓からホースで水を引き、水圧を利用して槽壁等の清掃を行った。槽底にたまった水は地上のバキュームからホースを引いて吸い上げた。
 次にNo.1の汚物槽の清掃に取りかかった。まず汚物槽に取り付けられた排水ポンプを用いて、汚水の排出を行った。排出後には槽内の槽壁に汚物が付着し、排水ポンプのピット内に汚水が数cm残っている状態であった。
 Fは、酸素濃度測定器を用いて酸素濃度の測定を行った。AはFの「大丈夫だ」という声を聞くと、雑排水槽で行った場合と同じく、鳥籠を2~3分間槽内につり下げて異常のないことを確認した。
 送風機のダクトをマンホールに入れ、約5分間送風機を作動させた後、Aはダクトを汚物槽から取り出して汚物槽内に降りて行った。槽外の消火栓から引いたホースで、水圧を利用して、中央にある排水ポンプに付着している汚物を洗い流した。次に、底に数cmたまっているヘドロ状の汚物を排水ポンプのピットに集めるため汚物を水でかきまぜた。
 この直後(槽に入ってから4~5分後)にAは息が詰まり苦しくなったため、槽外へ出ようとして、槽の外へ身体を出し、マンホールの縁へ腰をおろしたが、そのまま槽内へ転落した。
 Aを救助するためBとFが槽内へ入った。しかし、Bは苦しくなったため、すぐに外に出たが、Fは槽底に倒れた。
 Bが外に出ると、他の労働者は送風機のダクトを、倒れているAの近くに近づけ送風を開始したところ、数分後Aは自力で起き上がり、槽外へ出てきた。さらに送風を続けたが、Fは動かなかった。約30分後消防署のレスキュー隊に救出されたが、死亡した。
 酸素及び硫化水素濃度について
(1) 災害発生翌日で同様な構造のNo.2の汚物槽酸素濃度及び硫化水素濃度を測定したところ、酸素濃度は21%であり、硫化水素濃度は6~8ppmであった。また汚水を棒でかきまぜながら測定したところ槽底から50cmのところでの硫化水素濃度は20ppmであった。
(2) 汚水を採取し、硫化水素含有量を分析したところ、1l中に120mgの硫化水素が検出された。

原因

[1] 残留汚物をかくはんした際に、含まれていた硫化水素が空気中に放散され、これを被災者が吸入した。 
[2] 第二種酸素欠乏危険作業であるにもかかわらず作業開始前に硫化水素濃度を測定していなかった。
[3] 作業中に換気を行っていなかった。
[4] 作業者に硫化水素中毒に関する認識が欠如していた。
[5] 空気呼吸器等の呼吸用保護具を備え付けていなかったため、適切な救助作業が行えなかった。

対策

[1] 第二種酸素欠乏危険作業においては、酸素欠乏症及び硫化水素中毒にかかるおそれがあるので酸素及び硫化水素濃度を事前に測定する。
[2] 作業前の測定において硫化水素濃度が低くても、かくはん等により硫化水素が発生するおそれがあるため、作業中常に換気をする。 
[3] 作業主任者の指揮のもとに作業を行うとともに、作業員に対しても酸素欠乏及び硫化水素中毒等についての特別の教育を行う。
[4] 救助活動による二次災害を防止するため、呼吸用保護具を備えつけるとともに、救助時には必ず空気呼吸器等の呼吸用保護具を使用するよう教育を徹底する。 

厚生労働省 職場のあんぜんサイト より

コメント

この例では撹拌により硫化水素がガスになってしまいました。このような例は多いため、硫化水素の常時測定をお勧めします。濃度が上がった時点で非難することで災害に巻き込まれなくなる可能性は上がります。

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