甲製紙株式会社は、古紙パルプを使用してダンボール用原紙を製造している。その製造工程の概要は、新聞紙、ダンボール等の古紙を溶解し、古紙パルプを作り出し、離解、洗浄等を行い、さらにこれに染料、定着剤を添加する等の加工を行うことにより、完成パルプ液を作り出し、それから紙の抄造を行うものである。
作業者Aは、災害発生当日、染料、定着剤等の添加剤が投入され、貯留槽(以下「チェスト」という)に貯められているパルプ液を、かくはん器によりかくはんし、これを完成パルプ液貯蔵槽に送給する作業に従事しており、災害はこのチェスト(深さ3m、幅3m、長さ7.1m)の内部で発生した。
当日の夕刻、Aはかくはんされているはずのパルプ液がチェスト内で回流せず、平常はおかゆ状になっているものが、水分が減少しブロック状に凝固していることに気付き、チェスト内のパルプ液を完成貯蔵槽に送給するポンプを停止し、チェストの開口部付近から、その内部に水を補充した。約5分間水を補給しているうちに、チェスト内のパルプ液は再び回流した。
このため、Aは、パルプ液を完成貯蔵槽に送給しはじめたが、しばらくすると完成貯蔵槽に送られてくるパルプ液の状態が再び水分が少なくなったため、再度、チェスト内に水を補給する必要があると判断し、今度は、水補給用の高圧ホースを持ち、チェスト内部に設けられているはしごをつたい、チェストの内部床面まで入った。
一方、パルプ液に添加剤等を投入する作業に従事しているBは、Aが作業場所に見えなかったため、チェストをのぞき、パルプ液に浮いているAを発見し、事務所に災害発生を連絡した。災害の知らせを受けた甲製紙株式会社の代表取締役Cと同従業員Dが救出のため無防備でチェスト内に立ち入ったため、両名ともチェスト内で倒れた。