被災者は、下水道維持・補修工事、上下水道新設工事を行う会社(従業員数15名)の現場監督者である。災害の発生した工事は下水管の改造補修工事で、下水管の内面補修、一部下水管の撤去および新設等であったが、災害発生当時、工事はほとんど終了しており、ゴム板取付けを残すのみであった。
これは、硫化水素等のガスが他の区画に逆流しないようにするためのものであって、厚さ5mmのゴム板を適当な大きさ(本件の場合は40×40cm)に切り、アンカーボルト2本によってマンホール内1カ所の下水管取付け部上部に取り付けるものである。
このゴム取付け作業は、当日、現場代理人および他の作業者2人が行う予定であったが、雨のため作業を中止し、他の現場に回っていた。被災者および他の作業者1名(ガードマン)は雨による道路陥没の恐れがあるため、車で当該現場を見回りに来たものであるが、昼休み後、一時雨がやんだので、ゴム板取付け作業に取りかかった。
なお、被災者はこのゴム板取付け作業を指示されたわけではなかったが、以前よりこの作業について話を聞いており、車に材料のゴム板を積んでいたため、自分の判断で取付けを行ったものである。
被災者はまず、災害発生マンホールに近接するマンホールに入り、1カ所ゴム板を取り付けたが、この時には体の異常は感じなかった。この際、マンホール開口部の周りにバリケードを並べ、ガードマンが交通整理にあたっていた。
午後2時ごろより被災者は災害発生マンホールに入り、同様にして2本のボルトでゴム板の取り付けを行っていたが、目が痛くなったため2時半ごろいったん外に出た。3時ごろまで休憩したが、作業があと少しで終了するところだったので、再びマンホールに入った。このとき、強い硫化水素臭があった。
被災者はマンホール内で作業のためしゃがんだところ、作業は無理だと感じた。このため、立ち上がって外へ出ようとしたが、気を失って中に倒れた。
ガードマンが異常に気付き助けようとしたが、1人では無理だったので、近くの喫茶店の客2人の助けを得てガードマンがマンホール内に入り被災者を抱き上げ、2人に外から引き上げてもらい被災者を助け出した。この際ガードマンは呼吸用保護具は使用していなかった。
被災者は救急車で病院に運ばれたが、硫化水素中毒と診断され、1週間入院し、退院後も3日間休業した。
災害の発生したマンホールは図のように下部が内径90cm、上部が内径60cmの円筒状である。内部の気積は約1.02m3である。
災害発生後約1時間30分経過後に、警察および市水道局の職員が災害発生マンホール内の硫化水素濃度を測定したところ、143ppmあった。以前の作業の際の測定でも80ppm程度の硫化水素濃度が記録されていた。
通常の作業の際にマンホール内に入る場合には酸素および硫化水素の濃度測定、換気は行っていた。しかし、救出用の空気呼吸器等は備え付けていなかった。
被災者は入社後、現場監督または補助として働いているが、上水道の新設工事を主に担当しており、下水道維持関係の工事は応援に行く程度で、本件の工事についても、現場に入ったのは被災当日が3回目である。なお、被災者は第2種酸素欠乏危険作業主任者技能講習を修了している。