推進工法による下水管敷設の作業中、作業者3人が硫化水素中毒

発生状況

この災害は、推進工法による下水管の敷設工事において発生したものである。
 この工事は推進延長52.1mの計画であったが、約36m推進した地点で計画より上方に2cmずれていることが判明したので、推進方向の修正を行うことになり、下水管(直径25cm、厚さ1cm、長さ110cmの硬質塩化ビニール製)を5~6本抜き取ることにした。
 当日、現場に入場したのは元請の現場代理人A、直接作業を行う二次下請の作業指揮者B及び立抗内で作業を行うC、地上で推進機の操作を行うD、地上で雑用を行うEであった。
 作業は、朝から開始され、遠隔操作によって塩ビ管を30cm程度手前に引き寄せたときに、塩ビ管のゴムパッキンのところから水道の蛇口を少し捻ったときの量程度の地下水が漏出してきた。
 この水が推進機の電気系統に入ると故障の原因となるので、BとCが立抗内に降り、パッキンを推進方向に戻して地下水の流れを止めようとしたが止まらなかった。
 そのため、掘削作業をそのまま続けることにしたが、途中で突然Cが意識を失ってその場にうずくまった。
 また、地上で推進機の操作を行っていたDは、立抗内から「送風機をつけてくれ」という声が聞こえたので、送風機のスイッチを入れて立抗内を見たところ、Cがうずくまっており、Bははしごを登ってきていたが地底から約6mのところにきたところで意識を失って墜落していった。
 これを見たDは、はしごを降りて救助に向かい、B、Cの順にはしごを使って肩で上に押し上げるようにして立抗内から救助したが、Dも救助活動終了とともに地上で意識を失った。

原因

この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1  坑内の酸素濃度の測定等を行っていなかったこと
 この工事現場は、江戸時代に干拓が行われた場所であって腐泥等が存在していたため長年にわたり硫化水素が生成され、地下水とともに硫化水素等が漏出するおそれがあったが、作業開始前等に坑内の酸素濃度等を測定するという体制が確立しておらず、当日も測定が行われなかった。
 なお、発注者の施工条件には「立抗部・入抗の際には酸欠測定機器、有毒ガス(硫化水素等)検知器の準備、送風機の設置等」が明示され、また、元請の施工計画書には「第二種酸素欠乏危険作業主任者の選任、有毒ガス及び酸素濃度の測定」が盛り込まれていたが、下請には徹底していなかった。
 また、救助作業に必要な空気呼吸器などの機材を備えていなかった。
2  酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者が選任されていなかったこと
 この現場は、酸素欠乏・硫化水素危険場所であったにもかかわらず、有資格者がいないため作業主任者が選任されていなかった。
3  現場代理人としては初めての工事方法であったこと
 現場代理人は、建設業に26年、現場代理人として7年の経験を有していたが、推進工法による下水管の敷設工事は初めてであった。
 そのため、元請と下請との間の連絡調整が不十分で、工事の実施については下請任せであった。
 なお、現場代理人のほか、特別教育を修了したCを除き作業者に酸素欠乏及び硫化水素ガスの危険性についての知識がなく、必要な教育も実施していなかった。
4  換気をせずに作業を行ったこと
 立抗内には送風機が設置されていたが、稼動時の音が大きく、立抗内の作業者と地上にいる作業者との間で声による連絡に支障があるという理由で稼動させていなかった。

対策

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1  その日の作業開始前に酸素濃度及び硫化水素濃度の測定を行うこと
 酸素欠乏及び硫化水素中毒のおそれのある場所において作業を行う場合には、あらかじめ酸素濃度及び硫化水素濃度測定器を準備しておき、その日の作業を開始する前に必ず作業場所の酸素濃度及び硫化水素濃度を測定する。(酸欠則第3、4条)
2  坑内の換気を十分に行うこと
 作業場所である坑内の酸素濃度を18%以上、硫化水素濃度を10ppm以下に保つように十分換気するとともに、その効果を確認する。(酸欠則第5条)
 なお、換気用送風機の音が大きく、抗内の作業者と地上の作業者の肉声による連絡に支障がある場合には、あらかじめ無線又は有線による連絡手段を検討し設置する。
3  作業主任者を選任し職務を履行させること
 酸素欠乏危険作業については、第一種危険作業にあっては酸素欠乏危険作業主任者技能講習又は酸素欠乏・硫化水素作業主任者技能講習を修了した者のうちから、第二種危険作業にあっては酸素欠乏・硫化水素作業主任者技能講習を修了した者のうちから作業主任者を選任し、作業方法の決定、作業の指揮等の職務を行わせる。(酸欠則第11条)
4  保護具等の準備、機能点検を行うこと
 酸素欠乏危険場所で作業を行わせるときには、換気ができないとき又は非常の場合に作業者を救出するために必要な空気呼吸器等、安全帯等を準備するとともに、その機能を点検する。(酸欠則第5条~第7条、第16条)
5  安全衛生教育の実施等を行うこと
 酸素欠乏危険場所で作業を行う作業者については、あらかじめ特別教育を実施する。(安衛法第59条、安衛則第36条第16号、酸欠則第12条)
 また、元請事業者は下請事業者に対し、作業主任者の選任、作業環境測定、換気の実施、救出に必要な用具の備え付け等について指導援助する。

厚生労働省 職場のあんぜんサイト より

コメント

 対策の1にも上がっていますが、酸素濃度及び硫化水素濃度の測定が大切です。
作業開始前の測定を行うようにとありますが、私は常時の測定をお勧めします。
 なぜなら、作業により、高濃度の硫化水素が発生する可能性があるからです。掘削作業では場所によって、地下水などとともに硫化水素等が漏出する場合があります。清掃作業などでは清掃により汚泥が攪拌され、硫化水素が発生する場合があります。
 いずれも、作業前測定のみでは不十分で、常時測定をしておくことで危険を察知できます。
 密閉空間で硫化水素発生の可能性ある作業の際は硫化水素の常時測定をお勧めします。

「硫化水素」でお困りの際は私たちに連絡をください。

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