汚水処理装置の中和槽タンク内で作業中、硫化水素中毒

発生状況

 この災害は、農地造成工事で造成した農地から出る白濁水の処理装置の改善工事中に発生したものである。
 この造成した農地から白濁水が流れ出るとの苦情があったため、約半年前に汚水処理装置を設置したが、再び苦情が出たので改善工事を行なうことになり、災害はその準備段階で発生した。
 災害発生当日、改造工事で他に転用する沈澱槽に続き中和槽タンク内部の汚水を吸い出すために、タンクの上部にある直径45センチメートルの開口部からホースを入れ、ほぼ満水状態の汚水を散水車で吸引を始めた。
 タンクの上部から約1.3メートルのところまで吸引が終わったところで汚水がヘドロ状となり吸引が詰まり始めたので、農地造成工事を行なった会社の副社長は、沈殿槽の場合と同様ホースを調整しながら吸引しようと考え、タンクの開口部のところから設置されているタラップからタンクの中に入って行った。
 副社長は、一度だけタンクの外に顔を出して深呼吸をしたものの、その直後にタンク内に倒れてしまった。
 異変を聞きつけて、汚水処理装置の改造前の施工者である会社の社長が駆けつけ、副社長を救助しようとタンク内に入ったが、そのまま倒れてしまった。
 同じく駆けつけた改造工事を請け負った会社の社長等が、バール等でタンクを打ち破って二人をタンクの外に引っ張り出したが二人はすでに死亡していた。

原因

  この災害は、農地造成工事で造成した農地から出る白濁水の処理装置の改善工事中に発生したものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。
 災害発生後約16時間経過した時点で、中和槽に残っていた汚水をかき混ぜて硫化水素濃度を測定したところ、28PPMの数値が計測されたこと、中和槽では硫酸を加えて汚水を中和させていることから中性になっており、かつ、換気が不十分であることから酸還元菌等が繁殖する環境になって硫化水素が発生したものと推定される。
 なお、このようなタンクにおいては、酸素欠乏の危険性もあるが、タンク内の汚水が排出されたことによりタンク内に外気が入り込んでいることから、酸素欠乏による死亡とは考え難い。

対策

  この災害は、農地造成工事で造成した農地から出る白濁水の処理装置の改造工事において、汚水処理タンク内で発生した硫化水素により中毒死したものであるが、同種災害の防止のためには次のような対策の徹底が必要である。
1 タンク内の危険有害性の確認
2 タンク内の換気
3 酸素欠乏危険作業主任者の選任
 酸素欠乏危険作業を行なう場合には第一種酸素欠乏危険作業主任者、硫化水素中毒の危険がある作業を行なう場合には第二種酸素欠乏危険作業主任者を選任する。
4 特別教育の実施
5 監視人の配置
6 立入禁止と退避
7 二次災害の防止
8 安全衛生管理体制の整備等

厚生労働省 職場のあんぜんサイト より

コメント

 農地造成工事を行った会社の副社長がタンク内に不用意に入ってしまったことが、はじまりです。ピット、タンクなどに入る際は事前に酸素 硫化水素の濃度を測定するようにしてください。異常時はまず自分の身の安全を確保することを考えて行動してください。

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