災害の発生したA社は無機りん化合物、りん酸塩類、有機りん化合物等を製造している。被災者の所属するB社は、A工場内に事務所を置き、同工場から工場内の修理工事、清掃作業等を請負っている。
災害発生現場は、A社工場敷地内東端の地山を削った約600m2の空地にある、五硫化りんの製造工程で発生する「残さい」埋立てのために掘削した、開口部が約4m四方で、深さ3.2mの地穴である。
発生する残さいには、無害なもの(黒色塊状)と、五硫化りんを含み、加水分解、中和処理を行った上でなければ廃棄できないもの(黄色粉状)の2種類がある。B社は、A社工場内で発生する残さいのうち、無害なもの及び加水分解、中和処理で無害化されたもの(いずれも黒色塊状)が入ったドラム缶を残さい埋立て場所まで運び、地穴に投棄、埋設する作業を請負っていた。
作業は、次の手順で行われることとなっていた。
[1] A社作業者が、工場から出された「残さい」の入ったドラム缶のふたを1本ずつ開けて無害なものを選び出し、それをB社作業者が埋立て場所に運ぶ。
[2] 埋立て場所でドラム缶にワイヤーを掛け、ドラグ・ショベルで地穴上につり上げ、残さいを地穴に投棄する。
災害発生当日、B社作業者は上記手順に従って残さい投棄作業を行っていたが、11本目のドラム缶をトラックから降ろし、地上でワイヤーを掛け直して地穴上につり上げたところ、ドラム缶からワイヤーが外れ、ドラム缶が地穴内に落ちた。そこで、作業者2名がドラム缶にワイヤーを掛けるため地穴内に下りたが、2~3分後1名が倒れ、玉掛けを行っていたもう1名がこれを救出しようとしたが、同様に倒れた。
トレーラー上にいた作業者がこれを目撃し、パワーショベルのバケットを地穴内に下ろして地穴内に入り、両名をバケットに入れ、地上に引き上げて病院に運んだ。被災者のうち1名は2日後に退院したが、もう1名は硫化水素中毒により、休業3カ月と診断された。