災害発生事業場である甲社は、道路工事業等を営む事業者であり、本件災害は、同社が請負った社宅駐車場の舗装及び排水設備の改修工事現場で発生したものである。
その工事の概要は、
[1] 駐車場の旧舗装面上に、5cmから15cmの厚さで、新たに舗装を施すこと。
[2] 次に駐車場内の既設の汚水桝、雑排水桝について、その高さを新舗装面に合わせること。
[3] 蓋を新品に取り換えること。
[4] 最後に、汚水桝等の中にたまった小石、コンクリート片を除去し、桝内部を清掃することであった。
なお、災害発生当日には、既に舗装工事及び汚水桝等の改修工事は終了していた。
災害発生当日、甲社の作業者Aは、単独で、午前9時頃から、汚水桝、雑排水桝の内部の清掃を行うこととした。具体的な作業としては、汚水桝、雑排水桝の中に直接上半身を入れ、その中に堆積した小石、コンクリート片をパイプでかき集め、ゴム手袋をした手で直接すくい出すというものであった。作業を行うに当たり、排水管は小石等でつまって、汚水が、ほとんど流れない状態になっていたため、汚水桝の中には、大量の汚物が堆積していた。そのため、Aは、堆積した汚物をかきまぜながら、小石等をすくい出していた。
なお、この排水施設は、社宅居住者が常時使用しており、当該作業中にも汚物がしばしば流れ込むという状態であった。
Aは、作業開始後しばらくすると気分が悪くなってきたが、無理して作業を続けた。午後4時頃から、頭痛、咳、発熱等が一段と激しくなり、作業を中断し、自ら、病院へ行ったところ、硫化水素中毒と診断され、そのまま入院した。
これは、汚水桝の内部に滞留していた汚物(し尿)に含まれる有機物の分解により、硫化水素が発生したものである。