本災害は、橋脚の建設工事に伴い、同工事による既設下水管への影響を調査するために行われた下水道マンホール浚せつ作業中に発生した硫化水素中毒である。
作業予定は、次のとおりであった。まず、既設の下水道マンホール浚せつ及び変状調査の作業を行うため、下水管の上流側を堰き止め、さらに、160m下流側の下水管をも堰き止めて、上流側マンホールより水中ポンプを入れ、下水を汲み上げる。その後マンホール内に入り、下水管内に堆積した土量(汚泥)の調査を行うとともに、バキューム等を使用して、管内の浚せつ及び清掃を行い、最後に下水管内のクラック、変位等についての変状調査を行うものである。
災害発生当日の作業は甲工務店の4人で行われていた。下水の堰き止め作業終了後、水中ポンプで下水の汲み上げ作業を行った。作業開始約1時間後下水がほとんどなくなったところで、被災者Aはマンホール(深さ約13m)内部のステップを利用して、水中ポンプのところ(深さ約12m)まで降り、水中ポンプの上部をステップに固定した。
次にAは、マンホールの底まで降りて、片足で底にたまっていた泥状の沈殿物をかきまぜ、泥のたまり具合を調べた。このときの泥及び下水量は底床から50~60cmであった。Aは、その後、ステップを登り始め、水中ポンプ上部からステップを3~4段登ったところ(地上から深さ約11m)で、大声を発してマンホール底部に転落した。
Bが救出のため底部付近まで降りたところ、被災者Aは、左顔面を半分水面上に出し、仰向けに倒れていた。Bは1人で被災者Aを動かすことができなかったため、地上に戻り、レスキュー隊を呼び、約30分後被災者Aを救出したが、1時間後に病院にて死亡した。
なお、現場に持ち込んだ酸素濃度測定器は、硫化水素濃度を測定することができない機種であったため、硫化水素の濃度は測定していない。
また、現場に持ち込んだ送風機は、当日の作業時、上流側マンホール付近に常時置いてはあったものの、一度も使用していなかった。