配管工事で硫化水毒中毒

発生状況

災害が発生したのは、製油所においてフレアー助燃ガスとしてLPGを供給するため、LPGタンクからの接続用配管を既設の配管ラインに取り付ける工事においてである。 
 災害発生の3日前に、フレアースタック(副生する可燃性ガスを燃やすための設備)への接続配管をスチームパージして内部ガスを置換し、閉止板により遮断後、可燃性ガス検知器により残存ガスを確認した上で、フレアースタックへの接続配管をガス切断し、フランジ継手を溶接してT字分岐管、仕切弁を接続した。取付後すべての閉止板を取り外した。
 しかし、取り付けたバルブの仕様が違っていたため、災害発生当日にバルブおよびその取付フランジの交換作業を行うこととなった。
 フレアースタックへの接続配管は、石油精製に伴い発生する回収不能な可燃性廃ガスを、フレアースタックで燃焼処理するため、場内各施設から接続される大口径配管とこれに接続するための枝管からなっている。災害発生当日は大口径配管側との接続バルブは閉止されていなかった。
 被災したのは作業者Aである。当日の作業はAのほか、工事立会人2名、工事監督B、作業者Cで行われた。
 フレアースタックへの接続配管内部をスチームパージ後、取り出し部のフランジに閉止板を挿入し、バルブの取り外し、溶接フランジの取り替え作業を行い、仕様のバルブを仮取付した。
 バルブの取付に並行して、フレアースタックへの接続配管に挿入してあった閉止板をBとCが取り外したところ、仮付バルブのフランジのすき間と開放されていたバルブ端から硫化水素を含んだ可燃性のガスが噴出し、風下で作業していたAがそのガスを吸い込んだ。
 Aが突然配管ラックの上に倒れ込んだため、全員で直ちに7~8m離れた場所に避難させたところ、自力で意識を回復した。
 漏れ出したガスには硫化水素臭があり、Aが頭痛を訴えていたため、酸素吸入させるとともに救急車で病院に収容した。
 工事における安全衛生管理は、発注者(製油所)作成の工事施工要領および標準仕様書を基に、発注者の立ち会いの下で行われた。安全衛生管理の主眼は、危険物の取扱施設での火気使用作業に主体がおかれ、含有ガスによる中毒を視野に入れたものではなかった。
 災害発生後フレアースタックへの接続配管内の硫化水素濃度を検知管で測定したところ、220ppmであった。
 硫化水素は原油中の硫黄分を除く時点で発生するもので、硫黄回収装置で処理し切れなかったものをフレアースタックへ送るものである。
 硫化水素発生装置は災害発生箇所周辺にはなく、作業者、立会人共に硫化水素中毒への危険の認識はなかった。

原因

1 設備の改造で設備の分解作業を行うに際し、作業の方法および順序を決定し、あらかじめ作業に従事する作業者に周知させていなかったこと。
2 作業を行う設備に接続しているすべての配管から作業箇所に硫化水素ガスが流入しないようバルブ・コック等を二重に閉止するか、バルブ等の閉止と閉止板等の設置を行う等の災害防止対策の徹底がなされていなかったこと。 
3 取り付けた閉止板等に監視人を置くか施錠をする等の措置を取っていなかったこと。
4 作業を行う設備の内部が十分に換気されていなかったこと。
5 作業前に内部環境の測定を行っていなかったこと。
6 取り付けた閉止板等を取り外す際に、あらかじめ、閉止板とそれと最も近接したバルブ等との間の硫化水素の有無を確認していなかったこと。
7 作業者に呼吸用保護具を使用させていなかったこと。
8 本工事に係る危険有害性等についての安全衛生教育を行っていなかったこと。

対策

1 設備の改造、修理、清掃で設備の分解作業または設備内部に立ち入る作業を行うに際し、作業の方法および順序を決定し、あらかじめ作業に従事する作業者に周知させること。 
2 作業を行う設備から有害なガス等を確実に排出し、かつ、当該設備に接続しているすべての配管から、作業箇所に有害なガス等が流入しないようバルブ、コック等を二重に閉止するか、バルブ、コック等を閉止するとともに閉止板等を施すこと。
3 閉止したバルブ、コック、閉止板等には、施錠をし、開放してはならない旨を見やすい箇所に表示するか監視人を置くこと。
4 換気装置等により、十分に換気すること。
5 作業を行う設備の開口部で、開放により有害なガス等が流入するおそれのないものをすべて開放すること。
6 測定その他の方法により、作業者が健康障害を受けるおそれのないことを確認すること。
7 閉止板等を取り外すときには、あらかじめ、その閉止板とそれに最も近接したバルブ等の間の有害ガス等の有無を確認し、必要な措置を講ずること。
8 作業に従事する作業者に必要な保護具を使用させること。
9 本工事にかかる危険有害性等についての安全衛生教育を行うこと。

厚生労働省 職場のあんぜんサイト より

コメント

この災害は多くの場合の災害とは異なり、立会人や工事監督がいたのに、工事施工要領があったのに発生してしまいました。有毒ガスである硫化水素の危険を認識していなかったため抜け落ちていたようです。 この企業ではおそらく、工事施工要領は見直されると思います。皆さんも工事施工要領や手順書などは一定期間で見直し、より安全な作業ができるようにしてください。

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